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ストーリー詳細
真心を込めて綴られた時の絵巻を静かに味わって。胸を打つ声と響き合う調べに導かれ、ステージと日常が交わるかけがえのない記憶をもう一度心に抱きしめます。

(足元がふわふわする)
(聞こえる音が、全部、遠い)
(透明な布が、わたしに被さってるみたい)
……奏多さん
(今でもどこか、信じられない)
(もう二度と、会えないなんて)
だから……解散……
うん……そうだよ
(まほろさん、すごく辛そうな顔してた)
(思い出を話してくれてる時は、優しい顔だったのに)
(バンド……解散して、本当にいいのかな)
ふふ……奏多さんは、本当に、 millsageが大好きなんですね
もっちろん! あいつらには、幸せでいて欲しいって願ってんだ
わたしの大事な宝物だよ
……っ!!
はぁっ……はぁっ……!
(奏多さん、奏多さん、奏多さんっ!)
(わたしなんかじゃ何にもできないかもしれない……!)
(何の役にも立たないかもしれない!)
(でも……っ!)
(……奏多さんの宝物が)
(あなたが、この世界に残してくれた音楽が)
(消えてしまうなんて……そんなの嫌です!)
(わたしはまだ何もあなたに返せてない……! たくさん、たくさん、たくさんもらったのに……!)
(せめて……奏多さんが望んだ、みなさんの幸せを……!)
(みんなが悲しむ終わりを、少しでも変えられるなら……! わたしは!)
朋花ちゃん、本当に他のバンドやる気ないの? せっかくお誘いがあったのに……
ええ。今のバンドが私の棺桶なので
棺桶って…………そういう言い方よくないよ
(最初からそのつもりだった。このバンドは私の棺桶。 でも、それが叶わなくなった)
(だったらせめて、死に損なったままでも…… バンドマンとしての私を、ここに置いていく)
事情はわかるけど。 やっぱりバンド続けてほしいなって思っちゃうなぁ……
そうできるのが、1番幸せなんですが
うーん、勿体無い。 朋花ちゃん、せっかく才能あるんだから
……どうでしょうか
ほら、millsage入る前はボーカルやってたじゃない。 そっちでも十分やっていけると思うけど
ふふ。私なんかには、有り余るお言葉です
あ、そういえばさ。今日楽屋に来てた髪の長い子、 もしかして朋花ちゃんの知り合い?
ああ……汐見さんのことですか? 私は初めましてですよ
彼女のこと、ご存知なんですか?
一方的にだけどね。最近、あの子がストリートピアノ弾いてる 動画がちょっと話題になってて
あの子、子どもの頃はクラシック界で超有名人だったのよ。 『楽壇の天使』なんて呼ばれて神童だったんだから!
今はすっかりコンクールも出なくなっちゃったみたいだけど。 観たことあるけど本当にすごい演奏だったんだよ〜
……へえ? お詳しいですね
姪っ子が前にピアノやっててね。 ほらこれ、バズった動画
……!
(すごい……!)
はぁ、はぁ……! あのっ、すみません!
……まあ♪
えっ、本物!? なんで!
はぁ……はぁっ……! ま、まほろさん、まだいますか!?
……まほろさんでしたら、もう帰りましたよ。 何かご用でしたか?
あ……えっと……! millsageのことなんですけど……! ……すぅ……
……わたしに何か、お手伝いできないでしょうか……!
!
ご、ごめんなさい。 部外者が急に何を言うんだって感じですよね……
何も知らないくせにって……! ……じ、自分でも思います
でも……わたし……!
皆さんにとってmillsageは、大切なものだったんだなって
それはきっと、奏多さんも同じで
millsageのこと、たくさん話してくれて……笑ってて。 宝物だって、幸せでいてほしいって……!
だから……っ、バンド! 解散しちゃダメです!
みんなが幸せでいられるような、 そんな未来がきっとあるはずです!
…………
(……強欲、ですね)
(少し幼稚で、荒削り)
(でも、だからこそ――)
……お気持ち、承りました
!
ですが、今日はもう遅いですし……
よければ後日、改めてお話ししませんか♪
……ほんとに、送っていかなくて平気?
大丈夫だって。家族で晩御飯なんでしょ? だったら早く合流しなきゃ
でも
心配性だなあ。 私、これでも凪ちゃんよりお姉さんだからね
……だったらそろそろ、朝も一人で起きれるように なってくれませんかね? お姉さん
う……それはまた別の話ということで……
まだ夜は冷えるから、寄り道しないこと。 何かあったら連絡して
練習も今日はだめ、ゆっくり休んで。いい?
はーい
……わかってるんだか
じゃあ、またね
うん。ありがとう
…………
凪ちゃん、昔はもっとかわいかったのになあ
いつの間にかかっこよくなっちゃって。 まるで私が頼りないみたいにさ
……まあ、頼りないのはほんとかぁ
…………
ねえ、奏多
私、まだ覚えてるよ。 あの日奏多と話したこと
水瀬女子学園 屋上
こーんなとこにいた。 もう後夜祭始まっちゃうよ?
……おー
何、どうしたの? ぼーっとしちゃって
やー……
ライブ、楽しかったなって
……へ〜? 奏多もそんなふうになるんだ
んだよ、悪いか?
ううん、全然。私も今日のライブ、すっごく楽しかったし
中2の私に言ったらびっくりすると思う。 文化祭のステージでバンドやってるぞ〜、なんてさ
まだちょっと、心臓バクバクしてるかも
でもさ、青春だったろ?
……うん。笑っちゃうくらい
……最初はさ。 バンド組んで、やりてーことがあったんだ
え、なになに? アツい話?
そーだよ。黙って聞いてろ
――爪痕、っていうのかな
わたしが世界に、ちゃんといた証。 この人生じゃないと、生まれなかったもの
そーゆーの、あるといいよなーって。 ソンザイショーメーってやつ?
奏多……?
あははっ! ほらわたしって、かつては 病弱な儚い系美少女だったろ?
そういうこと考えがちだったんだよ
どこの誰が儚い系なの
ひでー
……とにかく。 わたしはそれが欲しくて、お前らをバンドに誘ったんだ
そんでなつめと朋花が入って、5人になって…… ははっ。だめだ、しょーもねー思い出しか出てこねえ
……メトロノーム事件とか?
あったな〜。サビの入りが全然合わねーから、 クリック流しながらやってみたはいいけど……
聴きすぎて、寝る前までずっと脳内にクリック音が流れて…… ……次の日私が寝坊しちゃったんだよね、あはは
あとはあれ。凪が初めて歪み踏んで、つまみメチャクチャで おもちゃみたいな音出した時はバカほど笑った
凪ちゃん、珍しく焦ってたよね。 直し方わかんないーって
それから〜ほら、初ライブ! なつめはお立ち台踏み外して本番ですっ転ぶし
とっさにギターだけは守ってたの、すごかったよね
よく怪我しなかったよな〜
あ、朋花ちゃんをみんなでエスコートしたのも覚えてるよ。 筋肉痛で腕上がらなくなっちゃったやつ
なんか途中からお嬢様と執事四人のノリになったんだよな 『お荷物お持ちいたします』って
あははっ、何だったんだろうね、あれ
はは、なー……まあとにかくさ。 そういう思い出ばっか増えてって
で、この前の合宿で気づいたんだよな
あ、こっちじゃん……って
こっち……?
そ。爪痕とか存在証明とか、カッケー理由並べてたけど……
結局わたし、青春したかったんだよ
……!
わたしたちが主人公の、青春の物語
……なんか、わかるかも
さっきのライブ終わった時、なんか漫画の最終回! って感じがしたもん
はー? 袖で『人生始まりそうな気がする!』 って言ってたの誰だよ
その時はそうだったの! でもいまは超完璧なエンドロール中って感じ
はは、なんじゃそら
まあとにかくさ。わたし、今めっちゃ幸せなんだよ。 この世界に感謝すらしてる
そこら辺歩いてるやつらとっ捕まえて、 全員にチューして回りたいくらいな
へ!? チュー!? なななな何言ってるの奏多ってば!?
キョドりすぎキョドりすぎ。女子小学生か。 それくらいってこと
その代わりに、わたしは音楽をやる
みんなに音で届けてやるんだ。 わたしたちから世界への、ハッピーな贈り物
あ……だから、millsage……? フランス語の千と——
祝い花のコサージュでmillsage
両手いっぱいじゃ足りないくらいの、 幸せのおすそ分けだ
なあ、まほろ。 わたし、実はな——
……え?
……っ!!
……
……私も、幸せだった
…………幸せだったのに……
ごめんね、奏多